E線は通常スチールを使いますが、使っているうちに黒サビが出てきて、手触りがザラザラしてきてツボも狂ってきて交換、というのが当たり前でした。モノによっては金メッキやアルミ巻などがあったりしますが、多少寿命が異なるだけで基本的にはどれも同じです。
A~G線も巻線の劣化、芯線の劣化などによって定期的に交換しますが、E線はそれらの弦に比べてサイクルが短いです。練習量や汗にもよりますが、寿命が短いと言われるゴールドブロカットなどでは毎週あるいは3日という人もいるくらいです。
オリーブやオブリガートの金メッキは同じピラストロのスチールよりは3倍程度持ちますが、値段も3倍、さらにひっくり返りやすいという欠点もあります。音の輝きは増しますが・・。
しかし少し前からマイナーではありますがステンレスのE線が出始めました。最初はヴィジョン・チタニウムのチタンメッキE線だったと思います。
今ではヴィジョン・チタニウム・ソロという名前になっておりますが、ステンレスの芯線にチタンメッキというのは変わっていないようです。確かに錆びにくいのですが、チタンメッキのひっくり返りやすさは金メッキを上回るもので、私が所有した楽器ではまともに使えたことがありませんでした。また錆びにくかったですがステンレスの質なのか、切れやすかったように思います。ただ、友人が1年使ったという弦はピカピカのままでした。また輝かしい音も印象的でした。価格は金メッキスチールの5割増しなのでそこもどう捉えるかですね。
次に登場したのがピラストロのエヴァ・ピラッツィ・ゴールドのE線。
こちらはメッキのないプレーンのステンレスです。これはわりと良かったです。メッキのようにはひっくり返らないし、本当に全く錆びない。ただ、ループエンドのループが小さいため、私の使っているBogaro&Clementeのカーボンアジャスターはフックが厚いため取り付けが出来ませんでした。また、他のアジャスターの楽器にも使いましたがこの弦も切れやすいのが気になりました。E線が切れるのはガットと同じで運みたいなものではありますが、それにしても立て続けに複数の楽器で1~2ヶ月で切れたので、やはり切れやすいのでしょう。
ステンレスといっても一定以上のクロムを含み錆びにくくした(Steinless→Stein less→錆で汚れない?)鉄の合金の総称というだけで実際はいろいろですので、クロムやカーボンの量によって錆にくさや硬さも変わります。ニッケルやバナジウム、チタンなどいろいろなものが含まれていて全く特性の異なる合金になっていることもあります。切れやすいというのは硬すぎるのか、靭性が足りないのかわかりませんが、体感的にはヴィジョン・チタニウムもエヴァ・ピラッツィ・ゴールドも切れやすかったように思います。
そしてようやく真打ち登場。プリム・リサです。
プリムはヴィオラなどではそれなりに使われているブランドですがヴァイオリンとしてはマイナーです。プリムのE線は前からありましたが、リサという名前で新たにステンレスE線として出してきたということなので試してみました。
すでに真打ちと言ってしまいましたが、結論から言えば今までのステンレス弦で一番良かったです。まず音やひっくり返りやすさですが、普通のスチールとあまり違和感がありません。少し固い感じがしますが私は好きです。そして弦のエンド部分。トマスティークの最近のものと同じくボールを外すことでループとの兼用が出来るタイプで、ループが大きめになっておりBogaro&Clementeのカーボンアジャスターに問題なく取り付けられます。
そして問題の切れやすさ。こればかりはサンプル数が多くないと正確なことは言えないのですが、少なくともここ2年位使って切れたのは1回。生徒の楽器などにも付けてますがそれも含めて今までのステンレスに比べて切れやすいという印象はありません。スチールを切れるまで使うことはあまりないので比較になりませんが、おそらく同等ではないかと思います。
先にも述べた通りステンレスとはクロムを混ぜて錆びにくくした鉄の総称でありますが、プリム・リサは耐腐食性と弦として長期間使う場合の強度を上手く両立させたようなステンレスを使っているのでしょう。
今のところ私は欠点を感じませんし、今張っている弦も1年くらい経ちますがピカピカのままです。複数の楽器を使っているので1年間弾き込んだわけではありませんが、かえって放置される期間がある方が厳しいようにも思いますし、A~G線は数回換えているのにE線はそのままいけるというのは驚きます。かなり弾き込んでいる生徒のE線もピカピカのままで見た目も音も変化なしです。
では欠点がないかというと、あえて言うなら換え時がわからないというところでしょうか(笑)。普通はA~G線は芯線のナイロンやガットが劣化して明らかに鳴りやレスポンスが落ちる、ツボが狂うなど気になりますし、スチールのE線も錆によるツボの変化、手触りなどで換え時がわかります。また錆によって振動特性も変わっているのか交換すると明らかに音がクリアになるので、そう感じるようでは使い過ぎなわけですから交換後に変化が感じられないように早めの交換を心がけます。
ですがプリム・リサは錆は出ないし手触りの変化もないし、半年くらいでは貼り替えた後の音のクリアさも誤差範囲くらいにしか感じられないので、「そろそろ交換しよう」と思わせるきっかけがないのです。もちろん実際には金属ですから錆は出なくても張力や振動などによって金属疲労は起こるでしょうし、本番で切れるリスクを考えたら定期的に換えるべきでしょう。A~G線を交換する何回かに1回はE線も交換するようにした方が良さそうです。価格も普通のスチールよりは高いけれど金メッキよりは安いですし。
しかしそう考えるとすごい弦だなと思います。E線は他の弦より寿命が短いのが当たり前で、A~G線1セットに対してE線は2本、3本用意していたことを考えると、その逆ですからね。手汗が少なくてE線の交換サイクルが他の弦と変わらない方にとっては大して魅力はないと思いますが、E線を頻繁に交換しなければならない方にとってはこの耐久性は結構衝撃的かもしれません。
なお肝心の音ですが、あまり特徴のない普通のスチールに近いです。若干クリアさに欠けるところもありますが、私としてはあまり気にならないくらいです。
ゲージはハード、ミディアム、ソフトとありますが、私はE線は太めのゲージを好むためにハードを使っています。他の弦はいろいろ変えたりしますが、今はA~G線はドミナント(Dはアルミ)、E線はプリム・リサのハード、という組み合わせです。私のサイトの弦の張力データのページにも追加してありますが、張力はどのゲージもわりと標準的かなと思います。
弦が持ちすぎて他の弦を張る楽しみがなくなって久しいですが、耐久性テストも兼ねて今張っているプリム・リサはもうしばらく使ってみようかなと思います。
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