オリジナル?の魂柱を試してみた

ヴァイオリン

私の楽器には購入時にIveさんのオリジナルと思われる魂柱がセットされておりました。駒から6mmとかなり遠目にセットされていたこともあってか非常に弾きやすいものの音の張りに欠けており、パワーと張りを得ようとしてすぐに駒と一緒に交換してしまいました。

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その時は調整の知識もほとんどなかったため魂柱を動かしたりもせずに交換してしまったのですが、この魂柱をもう一度試してみても良いのではないか、位置なども変えてみたらどうなるだろうか、と思い2年半ぶりにこのオリジナルと思われる魂柱を試してみることにしました。

ちなみにこの魂柱がオリジナルであるという根拠はありません。ただ、2004年の楽器で購入したのが2013年という9年間で魂柱を交換している可能性が低いであろうということ、木目が細かくまっすぐで精巧であるところが楽器のイメージと重なること、装着した状態でF字孔から覗いた時に色合いや風合いが裏板と魂柱がよく似ていること、というところでそう思いました。もっとも最後のはスプルースとメイプルなのでまったくあてになりませんが。比べるべきは表板と魂柱ですね。

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現在使っている魂柱は写真左端にある、陳昌鉉さんの楽器に一時期付けていたものを流用しています。太さは6.2~6.3mm、年輪は細かく冬目が濃く、良く締まった風格のあるとても古い材料です。はじいたり落としたりした音も甲高く響きます。音がストレートに飛び、パワーと音色のクリアさという実に私好みな特性でとても気に入っています。

そして今回試すオリジナルの魂柱は写真の左から2番めになりますが、色合いなどからそれほど古い材料には見えませんが、良く締まった質の良い魂柱のようです。木目も細かく非常にまっすぐで、冬目もしっかりしています。はじいた音も陳さんの魂柱ほどではありませんが甲高い響きです。ただ、太さが細めで5.9~5.95mmと現在の標準からすると細いようです。

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ちなみにどちらの魂柱も長さはほぼ同じですが若干短めで、魂柱の外側が駒足の外側にそろってしまう感じですが、E線の鳴りが重要な私にとってはむしろ好みといっていいところです。

こちらの右2本は別の楽器用です。6.6mmと5.8mmと両極端です。

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さて早速交換。テールピースの下に布をしいてから弦をゆるめ、駒を外して魂柱立てで魂柱をコロン。F字孔からレトリバー(取り出し棒)で魂柱を掴みF字孔から取り出します。これはレトリバーの先を魂柱をちょうどよくつかむように曲げて合わせておけば比較的簡単です。楽器を逆さにして振って出すのは至難の業ですが。

そしてオリジナルの魂柱を愛用のGemini魂柱立てにセットし、F字孔から楽器の中へ。駒のやや後ろの位置に立てたら魂柱立てを外さずに駒を立てて弦を駒が倒れない程度に軽く張り、駒との位置関係や角度を見ながら通常の魂柱立てでコンコンと叩いて大体の位置に動かします。だいたい良いなと思ったらGemini魂柱立てのトップのネジをゆるめてナイロンワイヤーをフリーにして魂柱から引き抜いて外し、あとは切込みを入れた名刺と定規で計りながら通常の魂柱立てで少しずつ微調整し、一度弦を通常に張って弾いて、弦をゆるめてコンコン、また張って・・・を繰り返します。

以前の記事の写真になりますが、Gemini魂柱立てはこんな感じです。

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「Gemini Soundpost Setter」

最初は通常の魂柱立てを使っていたのでとりあえず立てるだけでも一苦労で、それができれば大満足でした。ですが大事なのはその先ですし、通常の魂柱立てで立てるのには練習が必要でそれまでに楽器を痛めそうですので、ナイロンワイヤーで魂柱を抱きかかえるGemini魂柱立てを使っています。駒を立てるまで魂柱立てをはずさないのは魂柱立ての柄の部分がほぼ魂柱と平行になるので魂柱の角度がわかりやすいことと、最初のうちは微調整の途中でよく倒したので保険も兼ねてます(笑)。もう滅多なことで倒さなくなりましたが。

さて最初に立てた位置は陳さんの魂柱と同じく駒から4.5mm。弓のタッチが柔らかくなり、マイルドな印象です。G線やD線が良くいえば深い響きに、悪くいえばルーズな感じになりました。まあ下はこれもありかと思ったのですがA線とE線がずいぶんおとなしくなってしまいました。キンキンするのが嫌いな人にはむしろ好印象でしょうが私には物足りません。同じ位置に立ててもずいぶんと印象が違うものです。前の魂柱は古くて硬めの6.25mm、このオリジナルと思われる魂柱はやや新しくて柔らかく5.95mm。太さも硬さも違いが出る方向ですね。

その後も駒との距離を変えたりきつさを変えたりを日を置いていろいろやりましたが、2.5mmまで近づけてもA線E線の輝きは戻らず、むしろ弾き心地は反発感が増えすぎてあまり良くありませんでした。弾いているとすごく鳴っている感じがするのですが、離れて聴くとマットなおとなしい音になってしまうというか。そもそも私のIveにはあまり近すぎる魂柱位置は合わないようで、かといってちょうど良いと思われる3.5~4.5mmにするとオリジナルの魂柱では物足りなく感じます。ちなみにこの魂柱はカット面がほぼ完璧に合ってましたので、垂直以外のセッティングは試しませんでした。

しばらく弾いてみましたが、やはり元の陳さんの魂柱のほうが良いように思いましたので、結局戻してみました。するとG線D線はタイトでストレートに音が出て、A線E線はパワフルでブリリアントな音色が戻ってきました。セッティングが決まっていない仮に立てた位置でも明らかに音が違います。そして弾きながら微調整して一番バランスの良いところを見つけてから駒からの距離を測るとピタリ4.5mm。元の鳴りも弾き心地も復活しました。やはりこの音でないと!

ちなみに以前の記事でこの魂柱は3.5mmがベストとありますが、その後乾燥の時期に弾きにくくなったので少し離し、現在の4.5mmで年間通して落ち着いています。

オリジナルの魂柱もちょっと離れた位置に立てれば(4mmくらい)パワーと弾きやすさを両立出来ましたし、E線の鳴りや輝きを気にしなければ十分満足出来るレベルでした。むしろpppを多用するオケなどではこちらのほうが良いくらいです。しばらくソロもないしオケの方が多いのでこちらのほうが良いかなとも思ったのですが、結局はE線が物足りなくて元に戻してしまいました。

陳さんの魂柱、といいますか密度の高い古くて硬めの材料で木目細かめ、冬目太め、長さ短め、6.25mm、というような魂柱と私の楽器の組み合わせでは、楽器購入時の駒魂柱オリジナルのセットに比べてやや弾きにくい面がありますが(pppとか速いボウイングで裏返りやすいとか)、そのデメリットを遥かに上回るパワーとブリリアント感、ストレートな発音を得られているのでこのセットで使っています。

オリジナル(と完全に思い込んでおります)の魂柱を試して結局は戻してしまいましたが、細めかつ少し柔らかい魂柱でどうなるか確かめることが出来たのでそれはそれで良かったなと思います。また今の魂柱の良さを再認識し、全幅の信頼を置くことが出来るようになったのも良かったかなと思います。

魂柱は駒に比べて交換が難しく、また取り出さないとどうなっているのかわからないものでもあります。F字孔から覗いても木目や色合い、立ち位置からのおよその長さ(長めか短めか)くらいはわかりますが、太さや断面は外してみる以外に方法がありません。なので位置調整の経験は得られても素材や太さによる違いというのはなかなか難しいものがあります。全く同じ位置、同じきつさにセットするのは難しいですし、長さが違うと立ち位置が違ってしまいますし。

魂柱や駒でここまで音が変わるというのは意外と知られていないものです。仮に全く同じ楽器が2台あってそれぞれこの2つの魂柱がセットされていた場合、弾いた印象は全く異なりますし楽器購入の時にはその印象で楽器を選ぶ可能性もあります。そして選んだ決め手となった部分は単なるセッティングが好みだっただけということになります。

繰り返し何度も書いていることですが、楽器選びは本当に難しいもので、試奏だけの印象で決めることは余程の自信がなければしてはいけないものです。セッティングまで判断して購入することは普通の方にはまず不可能ですから(私ももちろん自信ありません)、信頼できる楽器店でお店の方と信頼関係を築き、その上でお店が「間違いない」と太鼓判を押してきた楽器の中でピンときた楽器を選ぶ、というのがやはり最良の楽器選びなのだと思います。試奏だけで決めて良いのは、その後調整する可能性の低い(調整費がもったいない)安価な量産楽器に限られるでしょう。

逆に、名のある有名楽器をセッティング合わず全然鳴らないままずっと使い続けているのをよく目にしますが、多くの場合はセッティングの知識がないというよりは他に比較するものがないことがほとんどのようです。アマオケなどに参加されている方は時々他の方の楽器を弾かせてもらったりすると良いかもしれません。

駒や魂柱のセッティングの簡単な知識を、他人の楽器を選定する機会のあるヴァイオリン指導者はもちろん、自分の楽器選びや調整のためにも出来れば持っていたいものですね。私もまだまだ勉強です。

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