楽器の駒&魂柱調整に挑戦 その1

ヴァイオリン

先日、メインの楽器を調整中の生徒さんがサブ楽器なるものを持ってきたのですが、その楽器の状態があまりに残念だったので私の方で簡単な調整を行いました。

カルロ・ジョルダーノSV-1&調整済み駒
「カルロ・ジョルダーノSV-1&調整済み駒」

楽器はカルロ・ジョルダーノSV-1という中国製の格安楽器で、弓やケースもセットでなんと2万円。駒を作ってもらうだけでも1万5千円くらいすることを考えると、どうやってこの値段で楽器の形にできているのか不思議なくらいです。しかも楽器は意外ときちんとつくってあり、モノ自体は悪くなさそうなのです。

ただ、駒は多少削ったくらいでまるで足など合ってないし、弦高は高すぎるし(E線で5mm)、魂柱はなんと10度以上傾いて立っている??弾いてみるとモコモコして音の張りが全くなく、音も弾き心地も残念すぎました。

まともにお店に出して調整するとおそらく楽器の値段を超えるということもあり、生徒さんに「この楽器は先生の好きにしていいです」というお言葉を頂いたので、最低限使える状態になるよう調整にチャレンジしてみることにしました。

まずは魂柱。弦と駒を外して魂柱の状態を確認すると、上(表板側)が相当後ろ(テールピース側)に倒れていて、駒と魂柱の距離は1cm近いというとんでもない状態。下側はだいたい問題なさそうです。まさかこの傾きに合わせて魂柱がカットされているのではと疑い上面と下面をデンタルミラーなどでチェックしましたがそんなこともなく、板との接点に傾き分の隙間がありました。このままでは表板と魂柱がへこんでしまうので、魂柱の上側を駒の方向に叩いて起こし、最後にきつさを調整すれば良さそうです。

魂柱立てを使って魂柱上部をほぼ垂直な状態になるまで少しずつ叩き、その状態で接点を確認するときちんと密着していました。きつさはあとで調整するとしてとりあえず魂柱はOK。

次は駒。足が全く合っていないのでまずはそこから。本当は駒の足は繊維をつぶさないように刃物で削るのですが、初めてなのでとりあえずサンドペーパーで。サンドペーパーを表板の駒の当たる部分に敷き、駒の足をそこにあてがってシャカシャカと削ります。その際、ブリッジフィッターなる器具を使い、駒の角度が変わらないようにしました。

足ができたら次は高さ落とし。弦高が1.5~2mm程高いので駒のトップを全体的に削って低くします。削りにはオルファのデザインナイフとハンズで買った彫刻刀を使ったのですが、この彫刻刀がよく切れる。1600円もしたのですが、やはりこういう作業は良い刃物を使うとスムーズに進みます。元の駒のアールがややきつかったので、A線とD線で2mm、E線とG線が1.5mm低くなるように少しだけゆるいアールにしました。

であとは弦の溝切りといきたいところですが、駒は下部に行くに従って厚みが増すため、高さを落とすだけでは駒トップが異様に厚くなってしまいます。なので駒の指板側上半分をサンドペーパーで削り、駒のトップ厚みを1.5mmくらいにそろえ全体のシェイプも整えます。

そして溝切り。1mmや1.2mmのような細い棒ヤスリがあれば良いのですがそんなものはないため、ナイフでV字にカットして半丸ヤスリの角で形を整えました。

これで完成でも良いのですが、やっぱり気になるのはボテッとした肉厚感。おそらく材料の駒の足を適当に削って、高さ適当に合わせて厚み合わせて溝切っただけのようなので、肉抜きやエッジ落としなど一切されていません。さすがにここはこだわりはじめるとキリがないので、ウイングの先端やハートの突起のエッジを斜めにカットしたり、足首上の刻み目をきちんと入れなおしたり、簡単ですが見た目の印象はかなり変わりました。

元々の駒にはE線のパーチメントを貼ってなかったので、買ってあったパーチメントを水に濡らして駒の形に折り曲げ、木工用ボンドを使って貼り付けました。本来は膠ですがこのためだけに用意するわけにもいかないためボンドにしました。どうせ剥がすときは削りとってしまいますので。ただ、後から考えると音のことを考えると乾燥時にもっと硬質になる瞬間接着剤の方が良かったかもしれません。

駒加工後

ナットの溝も浅すぎて弦高が高く、下のポジションで指が痛かったので溝をやや深くして押さえやすくしました。そしてペグにコンポジションを塗り、駒を立てて弦を張り、完成です。

早速試奏しましたが、全く別の楽器に生まれ変わりました。音量は倍くらいになり音の張りも出てきてビックリ。音だけで言えば最初が2万ならこれは10万といってしまっても良いレベルです。10万円以下の調整の悪い楽器に比べたら格段に鳴りもレスポンスも良く、ようやくヴァイオリンらしい音になりました。弦高も適切で弾きやすさも問題ないです。

カルロ・ジョルダーノSV-1&調整済み駒

その後1~2日経ってから若干魂柱をきつくしたりしましたが、それ以外は特に問題もなく翌週のレッスン時に生徒さんにお返ししました。
まるで違うことを感じられたようで喜んで頂けました。サブ楽器とのことでまたしばらくは使われなくなりそうなのですが、私自身が良い勉強をさせて頂きました。

最近(というよりここしばらく)更新をサボっておりましたが、この記事の後もいろいろ調整のネタがありますので少しずつ書いていこうと思います。

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