E線の4指Hの音程に注意

ヴァイオリン

普段ヴァイオリンの技術に関しては生徒さんを教えている関係もあってあまり書いていないのですが、レッスンをしていて感じるよくある間違いということでちょっとだけ触れたいと思います。

音程というものは非常に難しく、和音とメロディが入り混じると高め、低め、あるいは間を取る、テンポによっても音程を変える、さらに音程は個性だ、などといろいろあるわけですが、ここでは単純にG-DurやD-Durのスケールを弾く場合の基本的なお話です。

まずはきちんと調弦がされていることが前提です。

G線の開放からG-Durの音階を弾く時ですが、基本的には開放弦との共鳴で音程を取り、共鳴しない音は既に取っている音を基準に取るように指導しています。具体的には開放弦との共鳴を使い、

G線:1指はA線と、4指はちょっと指を立ててD線と、
D線:1指はE線と、3指はG線と、4指はちょっと指を立ててA線と、
A線:3指はD線と、4指はちょっと指をたててE線と、
E線:2指はG線と、3指はA線と、

それぞれ開放弦との響きでまず取ります。あとはG線であれば2指は開放弦と1指を交互に弾いてそれと耳で聞いて等間隔になるように2指を置き、3指は2指と隣のD線とでH~C~Dが半音+全音で綺麗につながるように置き、わからない時は隣のD線の3指を響きで取ってから耳で聞いて5度になるよう隣に移動、という具合に共鳴と耳の音程感の両方を使うようにしています。二度の音程感がつかめず次の音に上手く移せない場合は4度の和音も使いますが、そもそもその場合は重音が弾ける前提なのでそれはそれで初心者には難しかったりします。

ちなみに4の指は立てないと上の弦に触ってしまうため、共鳴させて音程を確認するときだけ触らないようにちょっと立てます。そのまま弾く必要はなく、元の角度に戻してから弾きます。元の角度に戻すと音程が変わってしまう場合は立てた状態の音程を記憶して、それと同じ音程になるように通常の角度で置き直します。

このように取ると楽器も良く響きますし、慣れてくると楽器の響きで音程が合っているかを瞬時に判断出来るようになります。自然と楽器の響きを意識して弾くようになりますし、音程も良くなっていきます。

それは良いことなのですが、響きで音程が取れるようになってきた時に注意するのがタイトルにしたE線4指Hの音です。あるいは3rdポジションのE線2指でも良いです。この音に関しては最も楽器が響くように取るとG-DurやD-Durのスケールで取るべきHよりも低くなってしまいます。つまりこのHにおいては響きで取ってはいけないのです。いやいけないというと言い過ぎで、GやDに対しての和音として取る時は正解なのですが・・。

一応理屈を書きますと、このHの共鳴はG線の5倍音(1:5)に相当し、2オクターブ(1:4)と3度(4:5)になります。この3度というのが曲者で振動数の4:5は純正律の3度になるため、スケールで取るべきピタゴラス音律の大全音8:9x8:9=64:81になっていないのです。純正律だと4:5=64:80と、数字の見た目の差はわずかですが隣同士だとGからAの8:9に対し、AからHは9:10と狭くなっており、実際の音程差は半音の1/4近くと大きく、E線でG,A,Hを響きで取って並べるとHは間が抜けたような音に聞こえます。

響きは実際にはある程度幅があり、少しずれていても響きが残るために正しいHをとっても響きがなくなるわけではありません。が、一番響くところ、つまり響きの中心で音程を取ると間違いなく低くなります。

ですので何でもかんでも響きで取るのではなく、Hを機械的に取りたい時はG-DurやD-DurのE線4指のHはA線4指のEから耳で5度になるように指をE線に移す、あるいは耳で開放弦からの間隔でHを取るようにしなければなりません。

このように響きに頼りすぎても良くないこともありますが、楽器の響きを感じられるようになると楽器の鳴り方、音色にも神経が行くようになりますし、楽器の音にももっとこだわるようになります。神経質になりすぎる必要はありませんが、楽器の音、鳴り方、響き、音色にこだわりを持つ、興味を持つこともヴァイオリン上達にも必要なことかなと思います。

レッスンの時には楽譜に響きで取る音にマルを、響きで取ってはけない音にはバツを書いたりしています。高い低いの矢印も書きますが、あまりそうすると極端になりすぎてそれがクセになることもありますね。全音を広く半音を狭くというのが行き過ぎて第4音を低く取り過ぎる方をよく見かけます。まあ私も注意されたものですが(笑)。F-DurのA線1指B、C-DurのE線1指Fなど低い1指のパターンでは特に低くしすぎになりやすいですね。テンポが速い時などに意図してその音程を取っているなら良いのですが、指のクセになってしまっていることも多いようです。本当の初歩の初心者の場合は全音と半音の区別があいまいだったりするのでそれでも良かったりしますが、中級者以上では気をつけるポイントの一つです。

カール・フレッシュのスケール5番の、C-Durを2ndポジションから弾くときのD線1指Fも同じく低くなりやすいです。最初のCの2指は隣のD線Gの音をG線と響きで取ってから耳で隣のG線Cに移して弾き始め、次の3指Dはちょっと立ててD線と共鳴、4指Eは同じく立ててE線開放と共鳴、次のD線1指Fは最初のCと4度の和音、といった具合で取ります。あとは応用すれば難しくないのですが、この最初の部分は正確に取ろうとすると思った以上に2~4指を開くので難しいですね。

ちなみに私自身は音程をアグレッシブに取る傾向があるため本番では気をつけて少し保守的に弾くようにしているのですが、良い所を見つけるのは難しいなといつも思います。

音程で思い出したのですが、以前聴きに行ったエンリコ・オノフリさんと杉田せつ子先生のアンサンブルによるバロックのコンサートで弦楽器が弦を一本ずつコンマスに合わせて調弦していたときのこと。ヴィオラとチェロのC線をヴァイオリンで作る段になってどうやるのか見ていたら、なんとG線の開放にD線の1指の長6度和音でEを取り、そのEとG線3指の長3度和音でCを取ったのです。一瞬、え?となり、特殊な音程に合わせているのかと混乱しましたが家に帰ってよく考えたら純正長6度-純正長3度=完全4度、転回すればG線の完全5度でした。まるでパズルみたいで面白かったのですが、D線の3指から隣に移してCを取るよりも精度が高いのか、あるいは少し音程をどちらかにシフトしていてそれをつくりやすくするためだったのか、結局のところは謎です。

音程って難しいですね。

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