こちらの生徒さんの楽器ですが、まだ初心者のためレッスンの時に私が調弦をしているのですがどうも最近GとDが弾きにくい。最近と言っても少し前の話なので、ちょうど乾燥が進んできた11月ぐらいだったでしょうか。重みをしっかりかけないと弓の毛が弦をとらえられずに滑ってしまうという症状です。
生徒さんにも聞いてみたところ、やはりGとDの「音が出ない」とのこと・・。私が弾きにくいと感じるくらいですから生徒さんにとってはなおさらでしょう。
楽器は下倉さんオリジナルのShimoraの中でもベーシック寄りのグレードである#120。Shimoraはドイツの工房で作られている楽器ですが、見るからにドイツという雰囲気の楽器です。直球勝負で良い楽器だと思います。非常にパワフルでがっつりめに乗せて弾かなければならない楽器で、わりとしっかり乗せて弾くこの生徒さんの弾き方には合っていたのですが、さすがにちょっと弾きにくくなってしまったようです。
さてまずは駒と魂柱の位置確認。見ると・・・近い。駒と魂柱の距離が1mm。この位置が楽器に合っているなら良いのですがそうでもなさそうですし、入門向け楽器のセッティングとしてはあまりに攻めすぎているのではないでしょうか。
まずは魂柱を少し下げてみることにしました。だいたい3mmの位置まで下げたのですが、そもそも魂柱がかなりきつく入っておりました。位置だけでなくきつさも原因だったようです。きつさはあまりゆるくしても乾燥している時期に合わせすぎてしまうので、最初よりはゆるく、でもしっかりめに入れてみました。
その状態で弾いてみると明らかに反応が良くなりました。全体的に弾きやすくなり、GとDもそれほどしっかり乗せなくても噛んでくれるようになりました。音量もそれほど落ちず、むしろバランスが良くなった感があります。楽器の鳴り方も自然になり、生徒さんも明らかに弾きやすくなったとのことでした。
その後一ヶ月くらい経ち、魂柱がなじんだか乾燥がさらに進んだかでまだGとDの弾きにくさが気になってきたのですが、これ以上魂柱を動かすと今度は湿度が高くなった梅雨の時期にパワー不足を感じる可能性もあるので、張ってあった弦をPeter InfeldからVisionに換えました。弦だけでは厳しいかなとも思いましたが、同じThomastikでもかなり強い弦から弱い方の弦に変えたので、思ったよりもGとDが弾きやすく変わってくれました。
それと松脂も多目につけてもらうようにしました。元々松脂をあまりしっかり塗っていなかったようですが、松脂を多目に塗ると音の立ち上がりが鈍く音もノイジーになる代わりに、音の立ちがマイルドになるというか、動摩擦と静摩擦の差が小さくなるというか、弓が滑ってしまうというものがいくらか緩和されます。松脂もライトなものを使っていたのでダークなタイプに換えるという方法もありますが、とりあえずお持ちのものを多目に塗ってもらうようにしました。
まだ少しだけ滑りますが、とりあえずこの状態で非常に乾燥している今の季節に少しだけ弾きにくさが残るという、なかなかの良いバランスになったかなと思います。弾きにくさが残った方が良いということではないのですが、楽器の特性や生徒さんとの相性を考えるとこのあたりが良いかなというところです。
さてここからは少し脱線・・。
ちなみに私は音の立ち上がりが鋭くかつクリアな音が好きなのですが、ダークな松脂を少なめに塗っております。同じひっかかりを出すのにライトなものを多目に塗るのとダークなものを少なめに塗るのでは、後者のほうが私の好みに近いようです。
弓の毛も本当は少なめが好きなのですが、あまり全てを自分好みなものにすると極端なバランスになるので、あえて普通でオーダーしています。弓自体が強くてクリアでシャープな立ち上がりをするというかなり私好みに振ったものなので、本当は多目に張って鈍くしてバランスを取ったほうが良いかもしれませんが・・。
それと先のような、GとDでしっかり乗せないと弓が滑ってしまうという状態は私のIveもわりと出やすいです。以前使っていたRebirthもそうでした。私の場合は楽器の鳴り方と弾きやすさのバランスをかなりギリギリを狙ってしまいますが、強めのセッティング、つまり駒と魂柱が近い、魂柱がきついetc、に弱めの弦を張るのと、弱めのセッティングに強めの弦を張るのとでどちらが好ましい結果になるのかはまだあまり実証できてはおりません。
ただ、鳴らない楽器に強い弦を張って鳴らそうとして良い結果になったことがあまりないので、やはり基本は楽器を調整した上で弦を味付けや音で選ぶようにし、調整代わりに弦を使わない方が良いのではと思っています。まあそうも言い切れないのかもしれませんし、もう少し経験積まないとなかなか難しいところですね。
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