フェルナンブーコのフィッティング

ヴァイオリン

弦楽器のペグ、テールピース、あご当て、エンドボタンをまとめてフィッティングと呼びますが、通常このフィッティングには黒檀、ローズウッド、ツゲが使われます。黒檀が最も重くて硬く、ツゲが軽くて柔らかく、ローズウッドはその間といったところです。音もその素材の硬さや重さが影響を与え、同じ楽器に使用した場合に黒檀は深くて落ち着いた音、ツゲは明るく甲高い音に変化します。

私の使っている楽器には最初、ペグ、テールピース、エンドボタンがブラックウッドという黒檀とローズウッドの間のような材料が(Bogaro & Clemente製)、あご当てはツゲのガルネリモデル(Crowson)が付けられていました。あご当ては体に合ったお気に入りのツゲのルジェーリモデル(Crowson)があるためすぐに付け替えましたが、他がどうも気に入りませんでした。

小さい頃からずっと量産楽器を使っていて当時はそのような楽器のフィッティングは黒檀のみだったためか、周りの人の持っている高い楽器に付いていたツゲなどの茶色のフィッティングは憧れでした。今でこそ量産楽器にもツゲなどが使われていますが、茶色コンプレックスなのか私は未だに茶色のフィッティングが大好きなのです。

ということもあり、あご当て以外のフィッティングパーツを換えたいとずっと思っていたのですが、いろいろ調べると最近では黒檀、ローズウッド、ツゲ以外のフィッティングもあるようで。先のブラックウッドもそうですし、弓の材料でもあるフェルナンブーコ、バロック弓にも使われるスネークウッドなどなど。このうち明るいオレンジのフェルナンブーコに一目惚れしてしまいました。

ちなみにフィッティングパーツを製作している有名ブランドにはイギリスのGerald Crowson、イタリアのBogaro & Clemente、フランスのBois d’Harmonie、ドイツのOtto Tempelなどがあります。このうちフェルナンブーコを扱っているのはBogaro & ClementeとBois d’Harmonieで、今回は比較的入手しやすいBogaro & Clementeのものを取り寄せました。生徒用のパーツも一緒に取り寄せたのですが、Bogaro & Clementeは日本のお店よりもメーカーのWebサイト経由でイタリアから直接取り寄せたほうが安いです。カートシステムが中途半端でメールのやり取りが必須になりますが。

先にテールピースとテールガットだけ取り寄せてあったので、こちらは自分で取付を行いました。ケブラー製のテールガットをフィッシャーマンズノットという方法で結ぶのですが、長さ調節が難しく4回くらい駒立てるところまでいってはやり直しをしつつ最終的には上手く取り付けることが出来ました。

Bogaro & Clemente Tailpiece

元々の楽器の音はややマットだったのですが、テールピース交換後は音は明らかに甲高く明るくクリアになり、かといって固い感じもなくて好みの方向性ともピッタリ。色合いもちょうどニスの色と近い色で綺麗におさまりました。見た目もいいし音もいいし言うことなし。

その後、駒足のニス修復を兼ねてペグとエンドボタンもフェルナンブーコに交換してもらいました。ペグとエンドボタンはシェーパーによる加工が必要ですので楽器店にお願いしました。道具さえあれば自分でも出来ないことはないのでしょうが、材料は安くないしそもそも道具が非常に高価ですし。ちなみにフェルナンブーコの加工は固くて繊維が強く、とてもむずかしいとのことです。

Bogaro & Clemente Pegs

仕上がった楽器を見てさらに大満足。音はテールピースを換えた時と同じ方向性ですが、テールピースに比べると変化の量は微々たるものです。エンドボタンは小さくて軽いですし、ペグはそもそも楽器の振動部から最も離れた位置にあります。音質の変化はもちろんありますが、それを狙って交換するには効果が小さすぎ、アジャスターや弦を交換する方がずっと影響が大きいです。

Bogaro & Clemente Pernumbucco Fittings

Bogaro & Clemente Pernumbucco Pegs

Bogaro & Clemente Pernumbucco End button & Kevler tailcord

フィッティングのうちあご当て以外はフェルナンブーコになりました。あご当てもフェルナンブーコにと行きたいところですが、今使っているツゲのCrowsonルジェーリ型がカップの深さ、形状ともにぴったりで、同様の形状のものがフェルナンブーコでは見つかりません。色合いもそれほど変わらないし、製作家の故陳昌鉉さんに裏掘りをして頂いたあご当てなので、このまま大切に使おうと思います。ドイツのオールド、リバースロッカ、陳昌鉉さんの楽器、そしてIveとすでに4台の楽器を渡り歩いているあご当てですし。

Bogaro & Clementeのテールピースには珍しいカーボン製のアジャスターが取り付けられており、こちらも試してみました。それまでIveに試したアジャスターの中でベストはPEDIのチタンで、音も固くならずに音量が出て響きが良く、ループもボールもOKで、ネジもスムーズで調節範囲も広いというなかなかものでした。

Bogaro & Clemente Carbon adjuster

対するこのカーボンアジャスターは音のレベルは形状も重さもまるで違うのによく似ていてなかなか優秀。フックの厚みがありすぎてループの輪が小さい弦は使用不可(ピラストロはほぼ全て使用不可)という制限がありますが、PrimのLisaというステンレスe線は大丈夫で、トマスティークのインフェルド以降のボール取り外し可能タイプもおそらく大丈夫かと思います。またこのような小さなアジャスターは大抵調整範囲が非常に狭くネジも固かったりするのですが、意外や意外調整範囲は思ったよりも広くネジもスムーズで驚きました。音も良く使いやすい、これは気に入りました。

欠点は装着できるテールピースと弦が限られること。特にテールピース側はシビアで、Bogaro & Clemente製であれば問題なく装着できるものの、他メーカーの場合はE線のアジャスタ取り付け円形穴の径がBogaro & Clementeのものと比べて大きくて小さくても装着できません。小さい場合はドリル等で広げれば装着可能ですが、大きい場合はまず装着出来ません。穴に引っかかるパーツのサイズが穴よりほんの少し大きいだけですので、穴が1mmでも大きいと引っかからずに抜けてしまいます。DIYで似たパーツを代わりに装着するなどすればいけるかもしれませんが。

また弦を引っ掛けるフックの厚みがテールピース穴のスリットと同サイズのため、ループ部分がよほど大きくないと引っ掛けることが出来ません。アジャスターにはボールエンド用もありますが、弦を引っ掛けるところがフックでなく穴のため、弦の先端をテールピースの裏側の穴から上に通しエンドまで引き上げてから装着するため非常に面倒であるだけでなく、気をつけないとテールピース下の表板に傷をつけかねません。どちらかを選ぶのであればループ用のほうが良いかなと思います。

欠点もありますが、音やコンパクトさ、そしてスムーズな動きと使いやすさもなかなかでこれは気に入りました。しばらくはPEDIのチタンでなく、こちらのカーボンを使ってみようかと思います。

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